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モンゴメリ2004 杉本紫乃

毎年この時期の週末4日間に渡り、アメリカ最大のテリアのイベント、モンゴメリ展がフィラデルフィア郊外のテンプル大学キャンパスで開催されます。その中でも10月3日(日)に行われたモンゴメリカウンティケンネルクラブのチャンピオンシップショーは最大のイベントですが、他にもアジリティー、オビーディエンス、スイープステークスと見所はいっぱいあります。

この大きなお祭りのようなイベントに一度は行ってみたいと思っていましたが、なかなかそのチャンスに恵まれませんでした。夫は3年前にこの素晴らしいイベントに参加し、その楽しさをいつも語ってくれていました。そして今年もまた行く予定をしていました。ところが、仕事が忙しく会社を休むことができなくなり、ようやく私にその素敵なチャンスが訪れてきたのです。 

私にとって今回の渡米は2回目となりますが、アメリカは大統領選挙を控え、以前にも増してセキュリティーチェックも厳しく、その上9月30日からは日本人も写真や指紋が取られることとなり、フィラデルフィアの空港へ着くまでは不安な気持ちでいっぱいでした。しかし、空港で友人のNancyの顔を見たら、それまでの不安はどこへやら、さあこれからいっぱい楽しむぞ!とばかりに興奮していました。Nancyはオハイオに住む友人ですが、私のために今年はいっしょにモンゴメリ展へ行ってくれることになっていました。アメリカではどこへ行くにも車がないと行けません。もちろん私一人では車を運転して行くことはとても無理ですから、Nancyのおかげでこの素敵なプランを実行することができたのです。

10月1日
ホテルへ入ると早速着替えてバンケット会場(パーティ)へ行く時間となりました。バンケットは私たちの泊まったホテルで開催されるので、とても楽でした。飛行機の中でほとんど寝ていない私は体内時計がすっかり夜となり、眠かったせいもあり、大勢のアメリカ人の中で少し緊張していましたが、同じテーブルの隣の方が気軽に話しかけてくれたため次第に緊張が解けていきました。ここでは、「エアデールを何頭飼っているの?」「男の子?女の子?」「どんな子達なの?」こんな共通の会話を通して、誰とでも仲良くできるのです。他にも日本に住んだことがあるという方が、日本語で話しかけてくれたり、エアデールテリアクブオブアメリカの新しい会長Charles Foleyも来てくれて、私たちのクラブの話しをしたりしました。また元会長のSuzanne Hunptonとも話しをしました。彼女に夫は仕事が忙しくて来られなかったことを話すと、「今度クラフトでまた会いましょうと伝えておいて」と答え、さらに「その時はあなたがドッグシッターになるのね。」と笑っていました。

ディナーがそろそろ終わる頃、クラブ功労者の表彰が行われました。皆さんの前でひととおり紹介され、称賛の拍手が送られます。そして次に海外からのビジターが紹介されます。イギリス、カナダ・・・日本からは私の名前が呼ばれ、皆さんから歓迎の拍手をいただきました。そしていよいよオークションの時間です。会場の周りにはずらりとエアデールグッズが並んでいます。オリジナルの絵もあれば、アンティークもの、また意外に手に入りやすいものまでその種類は多岐にわたっています。ほとんどがオープンオークションですから、私たちはグッズの横に置いてある用紙に値段を記入することができます。私が欲しかったものはすべて大きなものばかりで、とても持って帰ることはできそうもなかったのであきらめました。一方全員の前で入札するオークションは盛り上がりを見せ、どんどん高値が付いていきました。

モンゴメリ展にはショーなどに出陳する人もしない人も、犬連れの人もそうでない人もアメリカ中から集まってきます。この部屋には200人もの「エアデール大好き人間」がいますが、それはその中の一部にすぎません。どこを見てもエアデールの絵やマーク、そして誰の話もエアデールの話です。そのパワーのすごさには圧倒される思いでした。

10月2日
この日はホテルの裏庭でオビーディエンスとスイープステークスが行われ、車で数十分行ったところでオールブリードのDevonショーが開かれます。Devonに行くとオビーディエンスが終わってしまう可能性があるので、私はDevonには行かずに一日ゆっくりとホテルの裏庭でオビーディエンスとスイープステークスを観戦することにしました。

オビーディエンスとは日本語で「服従」を意味します。「服従」という言葉を聞くと、何か少し威圧的な感じがしますが、オビーディエンスの競技を見る限り、少しもそんな感じはしません。尻尾を下げておどおどとハンドラーの命令に従っているのではなく、いつもハンドラーの顔を見ながら、「ねえ、次は何をするの?」と犬もいっしょに楽しんでいるように見えました。競技のルールはその犬の段階によって違うようですが、審査員が後ろからハンドラーに指図し、それをハンドラーが犬といっしょに成し遂げていくようでした。 

すべての犬が上手にできるわけではありません。付いて歩かなければいけないときに、ハンドラーに遅れてしまい、ちょっぴりボッーとしていたり、持来でダンベルをハンドラー以外のところへ持って行ってしまったり、と失敗もいろいろありました。でも誰ひとり犬を叱責どころかいやな顔ひとつせず(苦笑いはしていますが)、ただ犬が自身で気づくのを辛抱強く待ち、できるとその場でしっかり愛撫して褒める、それは簡単なようで難しいことだと思いました。なぜなら、競技中ですからどうしても次の競技者を待たせ、審査員を待たせることになります。私たちはきっとそんなとき「他人に迷惑をかけたくない」という思いからじっと犬に考えさせる時間を惜しんでしまうだろうと思うのです。私はこの時、ここでは本当に犬が“主役”なんだということを強く感じることができました。ハンドラーも観客も、犬が失敗してもできなくてもアーアとため息をつくようなことはなく、できたときに心から犬を褒めたり拍手を送るのです。

オビーディエンスやショーにはBraceというクラスがあります。これは2頭で一対となって参加します。オビーディエンスの場合2頭いっしょですからなかなか動きがそろいません。特にリードをはずすと片方だけ別の動きになってみたり、ハンドラーの命令をちょっぴり忘れてなにやら好き勝手なことをごそごそやり出そうとしたり、本当にほほえましい光景でした。

オビーディエンスが終わると、午後からは同じ場所でスイープステークスが始まります。私はその間にNancyといっしょにサンドイッチを買って食べ、ショッピングを楽しむことにしました。この広いホテルの裏庭には様々なブースが出ています。エアデールテリアクラブ、レスキュークラブ、ワーキングドッグなど各グループがオリジナルなエアデールグッズを販売しているのです。それは見ているだけでも楽しいのですが、私は欲しいものがいっぱいあり困ってしまいました。でもまだ明日のモンゴメリショーでも売店がありますから、それほどたくさんのものを買うわけにもいきませんでした。

スイープステークスはMr.Les Leuckの審査で行われました。このショーは18ヶ月未満の若い犬が競います。一方ベテランスイープステークスは7歳以上の犬で競い合います。入賞者にポイントはつきませんが、1席から4席までの入賞犬(パピーは3席まで)には、それほど多くはありませんが賞金が出ます。出陳犬の中にはDevonショーとかけもちで出ている犬もいて、午前中にDevonへ行って午後から大急ぎでこちらへ来ます。

若い犬たちの出番が終わり、ベテランスイープステークスになりました。リンクにはヨタヨタした足取りで、コートも白っぽいいかにも老齢の犬がハンドラーといっしょに立っています。思わずプログラムを見ると、なんと誕生日は1990年5月、14歳ではありませんか。私は心から驚きました。他のベテランクラスに出陳している7歳ぐらいの犬たちと並ぶと、本当にヨタヨタして走るのもままなりません。いつの間にか私もNancyも涙がポロポロこぼれてきました。かわいそうと思ったのではありません。うちには12歳の牝が、Nancyのところには14歳の牝がいます。二人ともいつもこの年いったエアデールのことが心配でなりません。 だからこのショーに出ている14歳の牝を見てうらやましくもあり、ブリーダーでありオーナーであるハンドラーの誇らしげな表情に心から感動して、勇気をいただいたのです。そしてここでもやはり犬が“主役”なんだと感じました。ショーに出るということは「いっしょに何かを成し遂げる」ということだと思います。ひとりひとりショーに出る目的は違っていてもすべての人が受け入れられ、すべての人が楽しめるようにしたいと思いました。 もちろん、彼女の姿は会場を拍手の嵐に包み込みました。私は密かに今度の本部展にラフティ(12歳)を出そうと考えていました。

スイープステークスが終わったところで、エアデールキルトの抽選が行われました。これは、20人もの人々によって作られたもので、私達は一口5ドルのくじを買うことができます。私は事前にインターネットで50ドル分買っていましたが、さらにここへ来て30ドル買い足しました。この収益は全てがエアデールレスキューに寄付され、レスキューされたエアデールの犬舎維持費用、獣医代、グルーミング代などに使われます。観客の前で抽選が行われ、残念ながら私ははずれてしまいましたが、彼らの暖かい思いが詰まったキルトを実際に見ることができて良かったと思いました。

すべてのショーが終わると、きれいな場所に花が飾られ優勝者や入賞者たちの写真撮影が始まります。私も横からいっしょに撮影させていただくことにしました。私はいつもクラブのショーで写真撮影を担当しているので、カメラマンの動きがとても興味深いものがありました。犬の写真撮影というのは本当に難しく、いつもその犬のベストの状態を撮りたいと思ってはいますが、なかなかそのチャンスを捕まえるのは容易ではありません。 そのカメラマンは本当にねばり強く、何度でもハンドラーやトリマー(横でコームを持って待機しています)に細かい指示を出し、犬がだらけてくると再度歩き直してからまたステイさせるということを繰り返しました。その間後ろで立っているジャッジやクラブの会長はそのままずっと立っていなければなりません。しかし誰もイライラすることもなく、犬が最高のポーズをするまでみんなで待っていました。このあと紹介する写真はその時に撮ったものですが、もしあなたがこれでも最高のポーズ?と感じたならば、それは私の腕のせいで、最高のシャッターチャンスを逃してしまったのでしょう。

Best in Sweepstakes / Best Junior in Sweepstakes Best of Opposite Sex to Best Veteran in Sweepstakes
Best puppy in Sweepstakes

さていよいよモンゴメリ展のクライマックであるモンゴメリカウンティの日です。雨が降ったら最悪の状態だと以前から聞いていましたので、防水の靴やパーカー、傘など準備してきましたが、幸いにもとても素晴らしい天気に恵まれました。例年開催されているテンプル大学が工事で、使用できるグランドが例年よりも狭いため、私たち観客はかなり離れた駐車場に車を止め、シャトルバスで会場に向かいました。まだ朝早いにもかかわらず、駐車場にはすでにたくさんの車が止めてあり、シャトルバスを待つ人々も長い列を作っていました。それもほとんどの人が肩に折りたたみイスを背負っています。会場に着くとエアデールの審査はすでに始まっていました。私とNancyも何とか自分たちの場所を確保してから、カタログを買いがてら海外からのビジター専用のテントでコーヒーをいただきました。朝早いせいか、気温はとても低く、私は日本から持ってきた簡易カイロが必要でした。

私達はそこでDroffats Airedales犬舎のSueに会いました。2年前私がオハイオにNancyを訪ねた時彼女といっしょにDroffats犬舎を訪問し、Sueにはとても親切にしていただきました。ブリーディング、ショーイングなど色々なことを教えていただきました。Sueは昨日もスイープステークスに犬を出陳していましたが、それに続き今日も出陳していてハンドリングもします。今年のモンゴメリショーはエアデールの出陳数が144頭でした。そのため、リンクサイドで長く出番を待つことも多く、ハンドラーにとっても大変な作業ですが、彼女はとても生き生きとそれらをこなし、見事にハンドリングをしていました。

昼近く、私達は買い物に行きました。10件を超すブースでは、さまざまなグッズを売っています。私は昨日に続き、あまりのその豊富さに唖然としました。欲しいものはたくさんありましたが、私はクラブのフォトコンテストの賞品をここで選びました。エアデールの置物は日本ではめったに見つけられませんが、ここには色々なものがありました。その中で選んだものはピューターとゴールドピューターでできた置物です。サイズは大きくありませんがずっしりと重く、これが日本へ帰ってくるまで移動の際に私を苦しめてきたもののひとつです。

午後になると、気温も上がり、誰もが上着を一枚ずつ脱ぎ、半袖でも十分というような暖かさとなりました。そしていよいよベストオブブリードコンペティションが始まりました。次々と素晴らしいチャンピオン犬がリンクの中に現われ、ぐるりとリンクの中に並びます。その数なんと37頭。それにウィナーの牡と牝、リザーブの牡と牝が加わります。その豪華な様は夫から聞いていましたし、ビデオで何度も見てきましたが、実際それをを目の前にするとその素晴らしさに圧倒されてしまいます。観客たちも気持ちは妙に高ぶり、自分の応援する犬に最大の拍手を贈っていました。

楽しかったモンゴメリ展も終わり、私とNancyはニューヨークへ向かいました。ニューヨークでは3日間我がATCJの会員でもあるKさんご夫妻のマンションにお世話になりました。実はKさんは日本に住むお母さんの手術のため緊急に来日しており、私達とは入れ違いになってしまいました。しかし、ご主人のご両親がとても親切に私達をもてなしてくれたため、安心してニューヨーク観光を楽しむことができました。今回お世話になったKさんやそのご家族、そしてずっといっしょにいてくださったNancy、本当にどうもありがとうございました。ここに改めて感謝いたします。